「籠のリンゴと、水の瓶を2本。あとこのクッキーの袋をください」
「あいよ。見ない服だね。旅行客はまずはこれだよ」
手渡されたのは縦に長い地図。文字がびっしりと書き込まれている。しまった。この市がこんなに大きな規模だとは想像していなかった。食品、服飾、掘り出し物まである。
近くの遺跡のためにこの街に立ち寄ったのだけど、少しこちらを探索してみても良いかもしれない。例えばこのいびつな模様が刻まれた横笛。どんな音色がするだろうか、音ではないモノも呼び寄せるだろうか。
クッキーの袋を開け、一口。びっしり並んだ文字と、同じくびっしり並んだ店を交互に見た。何に出会えるだろう。わくわくしながら、僕は歩き出した。
制作:2023年
創作文芸同人誌即売会『もじのイチ』
第1回開催記念300SSアンソロジー【ある日市場を歩いていると】への寄稿。
お題は《マルシェ(市場)》。