風が運ぶ酸素さえ、全速力で走ってきたセピアには足りない。
『セピア』
揺れていたケースが少し水平に落ち着くと、セルリアンが声を出した。
「……なに?」
セピアの息切れも落ち着いてきた頃、セルリアンがもう一度声を出す。
『おいらもいつかは、“守られる”ばっかじゃなくて、セピアを“守れる”ようになれるかな……?』
セピアが目を丸くした。セルリアンの不定期な質問に対しての、先程の自分の返答。気にしていたのだろうか。それがこの言葉かもしれない。
が、
「ダメね」
『へあっ!?』
セピアはあっさりとダメ出ししてしまった。脱力したような鳴き声がケースから漏れる。
「あたしが組み立てないと、あんた何も出来ないじゃない」
トロンボーンの楽器変化ドラゴンの悲しい運命かな、組み立ててもらえないとドラゴンに変化出来ないという問題が、セルリアンにはあった。
『ちぇっ』
面白くない、と言うように、セルリアンが舌打ちをした。
「でも」
それを遮るようにセピアが切り出した。顔は微笑している。
「さっきのは格好良かった」
思わぬ言葉に、今度はセルリアンが目を丸くした。セピアが他人を褒めるなど、なんて珍しいことだろう。
「これからも宜しくね」
楽しげに笑う少女は、水の方へ小走りに近寄った。
「さぁ、次は湖を渡るわよー!」
『え?は!?ちょっと待て!!』
「待ったらあいつら追っ掛けてくるよー」
ボートへ飛び乗る。縄を外す。ぐいっとオールを引くと、それは岸から離れた。
ボート上で組み立てられドラゴンに変化したセルリアンは、すでにかなり酔っていた。
『うえっ……揺れでキモチワル……』
「あんた、それでもドラゴンなの?」
『うっせぇえ!!』
ドラゴンの叫びが、雲にこだました。
一人と一匹が目指す先は、おそらく対岸の町、ジェキィ。そこでは何があるのだろう。動き始めた時計の針は、留まることを知らない。
To be contined!!